先日は福岡市内より古い茶道具をお譲りいただきました。そのなかに龍文堂の銘のある上質な鉄瓶がありましたのでご紹介いたします。

龍文堂(りゅうぶんどう)は江戸末期から昭和33年頃まで8代続いた京都の鉄瓶屋です。明治から大正に掛けて高級な鉄瓶を製作したそうです。龍文堂でも本家と分家があり、鉄瓶に龍文堂と在銘が入っている物が本家で作られた物です。2代目の門人には近江の亀文堂がありそれぞれ歴代の名作を残しています。「龍文堂」の鉄瓶の名声は、明治・大正・昭和初期にわたり日本中に伝わるようになりますが、蓋の裏に「龍文堂」と名前だけを彫った贋作が数多く世間に出回ることとなりました。余談ですが夏目漱石の「吾輩は猫である」の文中に、このような一節があります。「この様な時には龍文堂の松風の音を聞いて茶を喫するが、最高の贅沢」 以上のことから、当代における高級な鉄瓶の代名詞として、いかに「龍文堂」の名声が高いものであったかを伺うことができます。今回のお品物はそんな京鉄瓶の礎を築いた龍文堂『鉄瓶』です。
正面には「御大禮記念」の文字があり、反対側には「萬歳」とありました。御大禮とは、天皇陛下が即位することを指します。そこから大正天皇か昭和天皇の即位の際に作られた品だということが分かります。